平成十一年十月九日
雲厳寺 黒羽
秋風や一時揺らぐ杉の皮
杉の脂てらてら木漏れ日晒しけり
石垣の白苔湿る秋の昼
秋色の濃き静寂の雲厳寺
秋天を衝く鉾杉の大樹かな
身に入むや巨石を磨く渓の音
磴登る足音響く薄紅葉
芋虫の山門歩く雲厳寺
瀬音して寂光放つ曼珠沙華
山門の秋天締める蔦一輪
山門を入れば盛りの梅擬
鐘楼の四囲に色濃き小菊かな
身に入むや箔の剥げたる菩薩像
蟷螂のすがりし寺の窓格子
翁句碑秋海棠の庭の中
竜脳菊純白青き空のもと
十月の鐘二つ打ち朱印受く
杉苔の重なる秋の木漏日よ
鬼やんま二度飛び祓ふ観音堂
冷まじき祠地蔵の丈一寸
覗きたる木馬の眼冷まじき
水底の影歪みしは山女魚なる
赤蜻蛉なんなくつまむ御手突石
秋深し滝音を消す早瀬波
立ち止まり師の教えたる女郎花
玲瓏岩覆ひおほせる蔦紅葉