奥の細道吟行

26項

中尊寺       平泉 

  境内や一樹一朶の初紅葉 
  香煙の太く崩れて秋暑し 
  日をはじく梅擬の実紅鮮やか 
  紫のスノーフレークや咲き誇る 
  池の面平去来す鬼やんま
  秋の夕不動の剣の耿耿と 
  ささくれし如来の衣冷まじき
 親指の立つ足さやか観世音
 台壇の框の螺鈿秋深し
 直視せる獅子の白眼冷ゆるなり 
  如来金色温顔映ゆる秋の風 
  金色の阿弥陀如来に秋気満つ
 秋の夕静か参道小鳥飛ぶ
 かなかなと扉を打つ声や光堂
 芭蕉像の横顔見つむ秋思かな
 秋の夕長押の文様幽かなる
 乳色の大黒柱冷やかに 
  水引草一叢気負ひ咲きにけり 
  茅の輪潜る時秋の蚊に襲はれし
 中庭に影くっきりと黒揚羽